an impulse



 



それはちょっとした油断だった。
珍しいワインが手に入ったからと夕食の席で紘子ちゃんに勧められて
悪酔いしてしまったばかりに。

火照る躰と酔いを覚まそうとベランダに出た。
何の警戒もなく、軽い気持ちで。
酔ってたし、気も回ってなかった。
気配に気づく暇もなく、後ろから羽交い締められ
口を手でふさがれた。
後頭部がそれの胸元に当たる。

(背の高い・・・知ってる、この感じ・・・
あのギルガメッシュだ。)

顔は見えないけど何度と対戦したアイツ。
地べたに押さえ込まれた事もあった。その時。
初めて間近に相見えた顔は本当に人間そのもので。
あの化け物がこんなに綺麗な顔立ちをしてたなんてと一瞬戸惑った。
ただ私を見下ろして笑ってるその顔とは裏腹に
アイツから漂う殺意はしっかりと感じながら。

(わざわざここまで私を殺しにきた?)

抵抗しようと力を込めてるはずなのに
思ったように動けない。
デュナミスも最悪な事に今は充分じゃない上に
まるで内側からガードされたように放てない。
アルコールのせい?

(こんな状態じゃ一気にやられる・・・!)

デュナミスが使えなければ私はだたのひ弱な人間。
こんなちょっとした油断が命取りになるなんて冗談じゃない。
ギルガメッシュの力の前では何の効果もないのは分かってたけど
私は持てる力の限り藻掻き抵抗を見せた。
けれど返ってきた反応は予想外のものだった。

「しっ。今日は戦いに来たんじゃないんだ。」

(だったら離せ!バカヤロウ〜!!)

なけなしのデュナミスでテレパシーを送った。

「離してもいいけど、騒ぎ立てないでよ?」

(分かった!分かったから早く!息が・・・!!)

「あ、ごめん」

アイツは悪戯っ子のように笑うと意外とあっさり私を解放した。
自分が暴れたせいで口をふさぐその手が鼻まで覆う位置にきて
困難になってた呼吸をやっと整えてアイツを見据えた。
涼しそうな顔をして、驚くほど平然とそこに立っているアイツを。

「やあ。」
「なんでアンタがここに居るのよ。」
「何でって、君に会いに来たんだよ。」
「はぁ?私に会いに? 私を殺しに来た、んでしょ。」

会いに来た、その言葉に一瞬ドキっとしたけど、私はそっけなく皮肉を返した。
力が無いのは分かってたけどすぐに戦闘態勢に入れるように身構える。

「君にはそんな事、似合わないよ。」

(え・・・)

そう言って笑ったアイツに私は思わず見とれてた。
普通に、同世代の男の子がするような屈託のない笑顔。
どこから見ても人間そのもの。
ううん、違う。こいつらはギルガメッシュ。恐ろしい獣。
一瞬でも見とれた自分に無償に腹が立って私は思わず声を荒げた。

「私だって好きでやってるわけじゃないっつーの。アンタたちが悪さするから
戦ってるんじゃないの!アンタたちさえ居なければ・・・!」

こいつらが居なかったら。
私が戦う意味はない。
それじゃあ私は紘子ちゃんに拾ってもらえただろうか?
まだあそこに居た?未だに生き地獄を味わっていた?
もしかしたら死んでたかもね。


「悪さだなんて。俺たちは人類の未来のために戦ってるんだよ」
「あっそう。アンタたちのお題目は紘子ちゃんからさんざん聞かされてるからもうたくさんよ。」
すでに戦意も殺意もないアイツがニヤニヤ笑いながら言う。
「ははは、やっぱりあの女のいいように言いくるめられてるわけ?」
「別に。紘子ちゃんに言われなくてもアンタ達のしてる事なんて
理解するつもりもできるわけもないって。」
「そう。別に俺も今更説得しようとか思ってないし。
でもさ、これだけは分かってよね。」
「なによ・・・ん!?」

油断した。
まるで人間同士のように会話してたから。
まるで年の近い男の子と口喧嘩してるみたいに自然だったから。
不意にふさがれた唇は、今度は手じゃなくてアイツの唇。
状況を理解するのに少しかかった。
強引に奪ったあいつらみたいじゃなくて。
藤崎の優しいけれど冷たい唇とは違って。
暖かくて柔らかい唇。
ヒトと同じ暖かい温もり。
そこに、驚いたからだけじゃなく、逃げ出さない自分がいた。

「あれ?」
唇を離したアイツのその声で我に返った。
まだ呆ける私を不思議そうにのぞき込む。
「てっきり、跳ね飛ばされるかと思ったのに。」
「んな!何すんのよっ」
「反応鈍いなあ、キミ。それとも・・・そんなにヨカッタ?」
「なっ・・・!そんなワケ無いっつーの!というか、アンタ、こんな事しに来たの!?」
「そう。」
「は!?な、なんでっ」
「人間はどういう時にキスするっての?」
「それは・・・っ」
「俺たちだってちゃんと感情はあるんだよ。」
「でも敵よ。」
「うん。次会うのが戦場だったら、容赦はしないよ。」
「こっちの台詞!今日の所は・・・見逃してあげるわよ。」

気恥ずかしさを隠すように私は顔を背けた。
寧ろ自分に分が無いことも分かってたけど、それでも精一杯の牽制だった。
ちらりと横目で伺うとアイツはニヤニヤ笑ってた。

「あはは、そりゃどうも。」
「だからさっさと行きなさいよ。」
「見逃してくれるのは嬉しいけど、忘れないでね」
「忘れる!ホラ、もう忘れたんだから!それに私は・・・」
「アイツ? やめといた方がいいよ。キミの想いは届かない。だってあいつは・・・」
「何よ。」
「・・・いや、何でもない。」
「そうやって話の途中でやめられるの、ムカツクんだけどー。」
「ふぅん、そんなに俺と語りたい?」
「なっ・・・もうっ!さっさと消えてよっ」
「わかったわかった。じゃ、いつかまた。」

そう言うとアイツはあっさりと姿を消した。
それとほぼ同時に廊下から足音が聞こえてきた。藤崎だ。

「風、大丈夫か?」
「え・・・」
「今、ギルガメッシュが来てただろ。」
「気づいてたの!? 何で助けてくれなかったのよ!」
「悪意や殺意は感じられなかったから。」
「え・・・。って殺意もなにもギルガメッシュでしょ!」

藤崎が警戒してないなんて。
本当に、アイツは戦うつもりでここに来たわけではなかったんだ。

結局なんなのよ、アイツ・・・。




アイツの去った方角を仰いで私はついさっきのアイツの笑顔を思い出した。
あいつの唇を。ぬくもりを。。。

また会いたいと、もう一度アイツの真意を確かめたいと
そう思ってしまった。





 

FIN

 

 






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なぜかセクス×風子。自分でも何故こんなの書いたか謎です(;^_^A
プチノヴェル「LOVE BATTLE」の続きになってます。
かなり前に書いてたのをアップせずお蔵入りしてたのを引き上げました。

 

2004.8.22