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「ノウェム、やっと目覚めたようね。」
「そのようね。。。」





人が住むには無機質な、全く生活感の無い一室で。
一仕事を終え、3人掛けのソファにセプテムが気怠そうに横たわっていた。
ノウェムの覚醒を感知したクァトルが報告に室内に入るもセプテムは気怠そうに一言口を開いただけだった。

 

 

「あの娘、死んだそうよ。・・・子供は無事だって。」
「そう。」

 


驚くでもなく、ただ機械的に答えるセプテムの横に静かに腰を下ろし
ゆっくりと顔色を伺うように近づくクァトル。
褐色の細い指で優しく労るようにそのしなやかな背を撫でる。
が、セプテムは何の反応も見せず目をつむったままでソファに身を委ねていた。

 

「かなり参ってるみたいね。そんなにデュナミス使ったの?」
「まあね・・・」
「いる?」
「ん・・・」


セプテムは瞼を閉じたまま、デュナミスを受けようとゆっくり首を動かし顔を仰向けた。
いつもの華々しさと自信に満ちあふれたその表情には覇気がなく
疲労以外の悲壮ささえも漂わせ、クァトルの表情を曇らせた。
額にかかった髪をそっと払い、額を優しく押し当てると
ほとんど空っぽになっていたセプテムの体内にクァトルのデュナミスが
清らかな風となって注ぎ込まれた。

 

しばらくの静寂の後、己の異変に気づき、クァトルはハッと目を開けた。

「・・・!?  セプテム?」


己のペースで与えていたデュナミスの流出が次第に早くなり、
与えているのはなく寧ろ奪われている事に気づきクァトルは困惑の瞳でセプテムに訴えた。
が、依然セプテムは目を伏せたまま、いつのまにか捕まれていた腕に細い指が食い込んでいた。

「・・・・・んっ、、、ちょっとっ!」


それまで穏やかだったクァトルの態度に変化が表れ、引きはがすようにセプテムの体をはね除けた。
呼吸を整えながらセプテムを軽くにらみつけると
それまでソファに横たえていたセプテムもゆっくりと躰を起こし視線を合わせた。

「ちょっと摂りすぎよ!今度はこっちまで参っちゃうじゃない。」
「悪かったわ。」
「セプテム・・・」


特に悪びれるでもなく、でも素直に謝るセプテム。
補充が済みようやく表情に精気が宿る。
確かに悪意は感じられず。かといって腹を空かせた獣が獲物を貪欲に貪る風でもなく。
何かを求めるような、気苦しささえ感じた。
珍しく余裕なさげなセプテムだった。

クァトルは小さくため息を吐くとセプテムをじっと見据えた。

 

「ねえ貴方、ほとんど使い果たしてたのね。
ノウェムの傷、そんなに酷かった?見た所そんなに重傷には見えなかったけど?」
「外傷はね。」
「え?」
「彼は身も心もボロボロだったわ。」
「オクト達の事?だったら心配ないじゃない、現に先生が・・・」
「癒しのデュナミスは与えるだけでは駄目なの。相手の受け入れる意志、修正しようとする意志がなければ、、、
いくら注ぎ込んだって無駄に垂れ流されるだけ。」
「それでそんなに消費を? ではノウェムは貴方のデュナミスを拒んだというの?」

「彼の傷ついた心、余計な記憶は消し去ってやりたかった。」

「貴方・・・まさか彼の記憶を弄ったの? それはルール違反じゃない? 勝手にそんな・・・」
「これから私たちがすることに、アレは余計な記憶でしょう?」

 

それはいずれ再会を果たすオクト達の事ではなく。
危惧していた事は円輝道の娘、紀世子との記憶。

セプテムの言わんとしていることをすぐに察しクアトルは俯いた。


「そう、ね。全ては先生のご意志・・・とは言っても彼には辛い記憶だわ。
優しすぎるから、彼は。」


必要以上に彼女に近づきすぎていた。
そう密かにクアトルは思っていた。
先生の為と、なんとか引き合わせようと彼女に何度か接触していたのは知っていた。
でもそれだけじゃない。
他のギルガメッシュ達とは違う視線で彼はあの姉弟を見ていた。
おそらく、セプテムも気づいていたのだろう。
紀世子の前で見せた威嚇は優越感からではなく防衛線。2人の心を遠ざけるための。
動揺を与え猜疑心を促し自信を喪失させる。
色恋沙汰に経験の乏しい紀世子にはあれで充分だった。

けれど。

 

「でも完全には無理だった。肝心な所までは触れさせてはくれなかった。」

 

小さく唇を噛みセプテムの表情に苦悩が浮かび上がる。
その細部に侵入するにあたってデュナミスを大量に使ったのだろう。
ノウェムが無意識にも抗い一番最奥に仕舞い込んだ少女との記憶。
守ったのか、彼は。。。

 

「ではノウェムは・・・」
「一時的にフィルタリングは出来たけど、何かのきっかけで解放されるかもしれない。
・・・どうなるか分からないわ。」
「貴方、恨まれるわよ?」
「かまわないわ。今はこうしておいた方がいいでしょう。彼にとっても私たちにとってもね。」
「ノウェム・・・彼がいなければ何も始まらない、か・・・」

 

 

 

 

 

 


感情なんてモノ、最初から無ければ良かったのに。
先生は何故こんな役回りをノウェムにお与えになったのか。
私達の中でも最も人間に近い、優しいノウェムを。。。
いいえ、最も遠いのかしら。
彼の力は偉大だわ。そして未知数の可能性も秘めている。
彼の力無くしては宇宙の浄化は成し得ない。
混沌とし荒んだこの大地もこの世の秩序も守れない。

けれど・・・

 

 


ノウェム・・・
貴方が頑なに守った記憶の娘はもうこの世にはいない。
貴方が守りたかった微笑みももう見ることはない。
光も。希望も。
この事実を知った時、貴方は正気を保てるの?
貴方は戦い続けられる?無情に任務を遂行できる?

全てを委ね忘れてしまえば楽になれるのに。
それでも尚抗い大切にしたい記憶。彼だけの大切な記憶。

 

 

人間の愛情と温もりを知ってしまったギルガメッシュ・・・
可哀想ね。。。

 

 

 

 

「貴方も可哀想なヒトね。」
「え?」
「癒しの力があるばかりに損な役回り。」
「私は先生のご意志に報いているだけよ。
損も得もない。私たちは任務遂行のために必要な力をそれぞれに与えられているだけ。」
「・・・そうね。」

 


全ては先生の、宇宙の意志。
私達の存在意義も人類が辿る運命も、何もかも。

 

クァトルは小さく自嘲するとセプテムの肩にそっと手を置いた。

 

「ノウェムの様子、見に行きましょうか。」
「ええ。」




いきましょう、ともに。






抗えない。
私達にはすべき事がある。
たとえ貴方にtear・・・涙というモノを流させようとも。。。

 





 

FIN

 

 






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23話見る前のひとり妄想です(;^_^A
思いっきりクァトルさんを捏造してますι
自分でも何を書いてるんだか何を書きたかったのかよく分からなくなってましたι
設定にあるクアトルの「理知的で仲間意識が強く、調和を重んじる」性格を出してみたかったのですが
仲間思いなクァトルさん、ってことで。
男女の愛情ではなく弟を見守る姉という感じがいいなあと思ってます。
セプテムも弟を溺愛しちゃってる姉の感じで。

あと、6話でオクトの死の決意に、目を伏せるノウェムが切なかったのでそのへんも。
心を痛めてたのではと。
(「ってか、助けろよ!」というツッコミは無しでι)

今後の放送でどんなキャラ性がお目見えするのかドキドキです。
ってか出番はあるのか?ι

 

2004.2.29