my belief

 

 

 

 

 

 

 

 


「絶対イヤです。」
「いい加減になさい!貴方は自分が何をしようとしてるか分かってるの!?」

振り上げられたその手に紀世子は微動だにせず、頬に受けた衝撃にも顔色ひとつ変えず
まっすぐに虚空を見つめていた。
もうその心は決まっていた。

 

「あんな化け物の子供を生もうなんて正気の沙汰じゃないわね。」
驚愕の瞳で伯爵夫人は紀世子を見た。軽蔑ともとれる冷ややかな視線。
以前ここで母親を嘲笑ったように今は自分が嘲笑われている、そう感じながらも
紀世子は怯むことなくきつく睨み返した。

「彼は化け物なんかじゃありません。」
「何言ってるの。貴方も見たでしょう?あの恐ろしい獣の姿を。
人の姿をしてる時こそ綺麗な姿をしているかもしれないけど
その中身はギルガメッシュ。化け物よ。」

明らかに嫌悪の色を見せる伯爵夫人。でもそれも無理からぬことだった。
彼らと会話しその人となりに触れたことのない人間にはギルガメッシュは恐怖と脅威の対象以外の何者でもない。
異種族、異生物。人間とは相容れない存在。
でも紀世子は知ってしまった。
彼らもまた心を持ち、傷つき痛みを感じる存在であることを。
人を愛し慈しむ感情があるということを。

「人間だとかギルガメッシュだとかそんなの関係ありません。彼はちゃんと心を持ってる。
貴方なんかよりずっと暖かな人間らしい心をね。」
「・・・!」

 

 

「貴方まさか・・・彼を愛してるというの? 
無理矢理そうなったというのならまだ同情の余地はあったけど、
貴方が望んだというのならこれほど滑稽な事はないわね。」
「・・・・・・・」
「馬鹿な子。いいえ、やはり同情するわ。こんな所まで母親と同じ道を辿るなんてね。」
「どういう事ですか。」

「貴方まだ気づかないの?利用されたってことをね。」
「な・・・」
「彼・・・そうあの金髪の男の子ね。所詮は貴方のお父様が創り出したモノよ。
この世の人類を滅ぼし新しい人類を創り出すためにね。
貴方を誑かして子供を生ませる事まで全ては貴方のお父様の計画って事。」
「彼はそんな事・・・!」

「じゃあどうして貴方の傍にいないの?彼は戻ったのでしょう?仲間の所に。自分の役目を終えてね。」
「・・・・!」
「彼が何を思って貴方を抱いたのかなんてこの際関係ない事だけれど、これも計画の一つ。
生まれたらいずれ奪いに来るでしょう。そうなる前に手を下さなくてはならないってこと、貴方にも分かるわよね?」

 

「それでも・・・嫌です。」


「! 強情な子ね。傲慢で、本当に母親そっくり。自己満足の為に人類を滅亡に導いてもいいと言うの?」
「この子が人類を滅亡に導くなんて、決まった事ではありませんから。」
「その可能性がある子供を放置しておくほど私は甘くないのよ。第一、生んでどうするの?」

「私が育てます。」
「一人で?」
「はい。」
「狙ってるのはギルガメッシュだけじゃない、あの男も狙っているわ。
まあ、あの男は抹殺するために狙うのでしょうけどね。それを貴方一人で守りきれるとでも?」
「・・・・・・」
「それに、人として生まれたとしてもその子は不幸になるだけだわ。」
「・・・何故です?」
「両親に愛されずに育った子供が幸せになれるかどうかなんて貴方が一番分かってるんじゃなくて?」
「!」
「いい機会だから教えてあげる。貴方のお父様はね、貴方の母親を愛してたわけじゃない。
子供が欲しかっただけよ。母親の方は愛していたようだけどれどね。」
「なっ・・・、そんな事どうして貴方が言い切れるんですか!」
「本当に愛してたのなら死ぬその時まで放っておいたりするもんですか。
あの女だって結局貴方達を放棄した。
多額の借金までして生んだ竜也さんを結局どうする事もできないままね。
一時の感情で親がした無責任な行為の代償を背負うのはその子供。」
「・・・!」

「貴方は同じ思いをその子にもさせたいの? 父親に愛されぬ子供を生みたいの?
そんな子供を抱えて、貴方だっていつか疎ましくなる日が来るわ。」

「違う、彼は・・・違うわ・・・」

 

 

 

 

彼は違う。


愛してると言った。
優しく触れてくれた。
寂しさを分かってくれた。
自分を守ってくれると言った。
共に居てくれると言った。

その言葉に、
自分を見つめたその瞳に、
あの暖かなぬくもりに
嘘はなかった。

最後に見た彼の、
遠く離れてもすぐに私を捕らえたアイスブルーの瞳は
何か伝えようとしていた。
かすかに動いたその唇は何を言おうとしたの?
 


「       」



そう聴こえた気がした。

 



嘘じゃない。
彼の言葉も心も嘘なんかじゃない。
仕組まれたシナリオなんかじゃない。

私は彼を信じてる。

だからこの子は・・・

 

 

 

 





「これ以上おしゃべりをしても無駄のようね。時は一刻を争うの。
悪いけど、手荒な事も了承していただきたいわね。」
「!」
そう言うと伯爵夫人は自ら注射器をとり、紀世子の腕に押し当てた。
「いやっ、やめて!」
「!?」
その瞬間。紀世子の叫びと共にその躰は青白い光に包まれた。
注射器は砕け、周囲にその破片が飛び散り夫人の手が鮮やかな血で染まる。
「な・・・」
「・・・・・!」


デュナミス。
先ほどのブラッタリア襲撃時と同じ強力な閃光が紀世子を守るべく覆っていた。


「そう、、、あくまで拒否するつもりなのね。貴方もその子供も。
こちらもそれなりの覚悟で挑まないと、ということね。
いいこと?後悔は先に立たないってこと、よく考えておいてちょうだい。」

部屋にずしりと響く音と共に激しくドアが閉まる。
あの何時も冷静で取り乱さない伯爵夫人にしては珍しい。
それだけ切羽詰まってるという事なのだろう。
血塗られたドアノブを見つめながら紀世子は伯爵夫人の言葉を反芻した。

 

 

 

 


腹部に優しく手を当て睫毛を伏せる。
自分の鼓動の奥深くにもう一つの鼓動が音を成す。

 

 

貴方が守ってくれたの?

そう・・・貴方はこの世に生まれ出たいと思ってるのね。

 

 

 


紀世子はゆっくりベッドから降りると窓辺に立ち、空を仰いだ。

 

シェルタリングスカイ。
ずっと忌々しいと思ってた、父さんの罪。
結果、この世に生を受けた彼。ノウェム。
出会い、すれ違い、恋に落ちた。
これは父さんのシナリオ?
偶然?必然?
罠にはまっていく自分がいる。
伯爵夫人の言葉を否定しきれない自分がいる。

 

紀世子の頭に抽象的な事象と断片的な映像がフラッシュバックする。
繋がらない糸、見えない出口。闇と光が交錯する。

 

 

でも、それでも私は・・・

 

 

ノウェム・・・
貴方は今何処にいるの?
貴方に会いたい。
何時かは二度と会いたくないと思っていた貴方に
今はこんなにも会いたい。
そして伝えたい。
あたりまえのように優しかったから
あたりまえのように慈しんでくれたから
私はそれに甘えて大切な事を伝えてない。


だから私は生むの、貴方の子を。
これが私の想い。


 


だからいつかきっと・・・

 

 

 

 

 

 

 


見上げたシェルタリングスカイは更に混沌の色を濃く映し出していた。
この先の過酷な運命を予兆するかのように。。。


 

 





 

FIN

 

 






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20話見る前のひとり妄想です(;^_^A
19話ラスト、あれから一悶着あるだろうなという感じでι
円輝道のモクロミとか、伯爵夫人の真の狙いとか(<この人も色々裏がありそう)、
紀世子さんの微笑の意味とかよく分からないで書いてますので
話進んだ後でオカシナ点がいっぱい出てくると思います(;^_^A
ご容赦くださいませ(大汗)
いつも綱渡りで書いてるなぁ私σ(^◇^;)

情景&心理描写に時間がかかっていつもギリギリアップですι
こういう捏造話って次回見ちゃうとその時点で方向が決まってしまいますからね。
1週間のうちに捏造しまくり・・・このスリルが好きなのだろうか?(笑)
本編に補完的な話がないと自分の頭で納得して話が進まない!という感じで自給自足気味に書いてます。
別に辻褄合わせしようとしてるのではなく、単なる妄想ですけど(笑)


・・・こんなの書いてますけど、伯爵夫人好きですよι

乱文失礼しまいしたm(_ _)m